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みなさんこんにちは。加藤嘉一です。

2月8日(金)の昼間から夜にかけて、アメリカ東北部は
ストームという歴史的大雪に見舞われ、ボストンにも直撃しました。
当日はハーバードも休校となりました。僕にとってはすべてが経験。
台風サンディーに続いて、アメリカ社会が可変的な状況に如何に対応するのかをウォッチする絶好の機会でした。

9日の午後になるとお日様も出てきて、ハーバードのキャンパス内ではエリート学生たちが、
雪に向かってダイビングしたり、食堂のお盆を遣って下り坂をスライディングしたりと大はしゃぎでした。
あの子供のように無邪気な余裕さが印象的で、彼ら・彼女らがエリートたる所以を垣間見ました。

2月10日午前8時(ボストン時間)。

約3時間の執筆を終え、ランニングウエア―とシューズを身に着け、表へと出る。
辺りには雪かきをする市民の姿が伺えた。
183センチある僕の太ももの位置あたりまで積もった雪は、いまだ健在だった。
こんな大雪のなかを走るのは、10年前、駅伝部に所属していた高校時代の長野県車山高原正月合宿以来だ。

舗装されているところ、そのままになっているところ、ぐじゃぐじゃになっているところ。
いろいろだったが、とにかくいつもと変わらない12キロのコースに向かって走り出した。

歩道と車道を行き来しながら、何度もバランスを崩しながら、前へ、後ろへ、
右へ、左へ。くねくね、ザクザク。

走り始める前は、
「この悪天候でもいつもと同じタイムで走ろう。それがまた自信になる。集中していこう。」
と気合を入れていた。

ところが、いざ走り始めると、体調が悪いわけではないのに、どれだけ脚に力を入れても前に進まない。
逆にバランスを崩してしまう。次第に疲労してきて、視界までもが揺らいでくる。
ストレスがたまり、イライラしてくる。

「このままではいけない」と悟る。発想を変えてみる。

「悪天候の中どれだけ力を入れたって無駄。思いっきり肩の力を抜いて、
迫りくる障害物を乗り越えることを楽しみに走ろう。自然の、曲線的な道のりに身を委ねてみよう。」

ストライドを狭めて、細かいピッチを刻む。
視線を前方から、足元へ落とす。
疲れが抜け、脚にいい感じで力が漲ってきた。

バランスを崩してもイライラしない。

前に道がなくても、焦らない。

また起き上ればいい。

自分の脚で道をつくればいい。

自分の足音に耳を澄ませながら。

自然と一体となっている状態に幸福を感じながら。

たまには後ろを振り向いたっていい。

自分が遺した足跡が見える。いつだって。

走っているのは自分だけじゃない。同じようにバランスを崩しながら、
それでも笑顔を絶やさないで、走り続ける仲間がいる。

ガッツポーズやハイタッチで心を交わすたびに、僕は元気をもらえる。

生かされている。異国の地で感じる。

今日という日は、10年間付き合ってきた中国の春節。中国の人たちにとってのお正月。

今日という日は、28年間自分が生きてこられた土台を作ってくれた母親の誕生日。
一番感謝の気持ちを込めたい、自分のすべてを捧げたい日。

色んな想いが錯綜する。気がづくと、残り1キロの地点に差し掛かっていた。
前方に目をやると、道路がそれなりに舗装されていて、スピードが出せるイメージが湧いた。
逆風のなか、一気にペースを上げて、ガムシャラに手足を動かした。

格好悪くたっていい。

ゴール地点には雪が積もっている。少年野球時代の光景が脳裏をよぎる。
思いっきり、ヘッドスライディングで飛び込んだ。

腕時計に目をやる。

62分2秒。ボストンに来て以来最も遅いタイム。

「思いっきりアウトだな」

それでいい。それでもいい。

太陽が地面を照らす。

氷が解けていく。

2013年2月10日 ボストンケンブリッジの自宅にて