ソウルにて

January 18th,2011
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皆さんこんにちは。
今韓国に来てます。
一週間くらいの滞在です。
僕は北京大学朝鮮半島研究センターで、朝鮮半島の動向を北京から追っていますが、
これからソウルやモスクワ、ワシントン、そして東京にも研究関連の出張で
出向くことも増えてくると思います。
とはいうものの、日本人にとって「朝鮮半島」という地域は歴史的にも、構造的にも、
国民感情的にもセンシティブ。
肝に銘じて取り組んでいきたいと思っています。

生まれて初めのソウル、仁川空港着陸前は少し緊張しましたが、ソウルは日本人にとって好意的というか、
何処にでも日本語の標識があって、生活上の不便はほとんど感じていません。
韓国語も徐々に勉強しています。先日韓国内で政府のブレーンとしての役割を担っているシンクタンク、

世宗研究所を訪問し、研究者たちと交流しましたが、自分の韓国語も少しずつ通用するようになってきました。
まだまだ中国語、英語のレベルには達しませんが、日進月歩でがんばります。

日本の前原誠司外務大臣が外相会談のために訪韓していたとき、僕もソウルにいたんですね。
全くの偶然です。
ただ、前原大臣がソウルで交流された政府ブレーンたちとは僕もコミュニケーションをとっていたので、
興味深くその訪韓を傍観してました。
朝鮮半島をめぐり、北朝鮮の安全保障、国民国家としての基本的な経済・福祉を保障するのと同時に、
如何に金ファミリーに核兵器を放棄させるか、という問題がありますが、日本としても他人事ではありません。
韓国と同じくらい、それ以上の当事者意識を持ってウォッチし、コミットしていく必要があります。
前原大臣が提起された、日本も北朝鮮と直接協議する用意がある、韓国サイドが南北対話を推進するのと
同時進行で取り組みたい、という意思表示は極めて重要だと、ブレーンたちは評価していました。

先ほどソウル市内を走ってきました。
とっても寒いです。

16日の日曜日は90年代以来で最大の寒さを記録したようです。
朝5時から走ってましたが、手は凍りつき、耳が剥がれそうになりました。
何でこんなに寒いんだろう、北京でもこんな感覚はないぞ、と死にそうでしたが、
マイナス18度は寒いはずですよね。いい思い出になりました。
僕は中国国内外を含め、見知らぬ土地に来ると必ず自分の足で走ります。
人々と生活に入り込んで行って、生活の吐息を感じながら、文化を理解する。
国際政治を研究する人間にとっては、最も大切なアプローチだと、個人的には思っています。

北京からソウルに来て感じること。
それは、やっぱり日本はいいな、に限ります。
僕は純日本人なので、それは当たり前といえば当たり前なのかもしれない。
でも言語とか、文化の違いとか、国民性とかいう次元を越えて、日本には独自の豊かさがある。
便利で仕方がない(もちろん不便なところもあるけれど、たとえば無線ランが公共の場所でほとんど無料で、
自由に使えないとか、この件は別述します)。
それに、成熟している。
ソウルは地下鉄は発達しているけれど、渋滞が北京にも勝るとも劣らずひどい。
コーヒーは薄い(自分はコーヒー中毒です)。
訪問する企業・研究所は決まってミルク・砂糖を入れた状態で
持ってくる
。ソウル市民はすごくせっかちなイメージ。
スーツを着て、革靴を履きながら、
僕のスピードくらいで、全力ダッシュでオフィスに駆け込んでいる女性たちが印象的だった。
何かに追われる感じでストレスをためている(東京市民もそうなのかもしれないが)。
北京市民は、せっかちだけど自由というイメージですね。
ちなみに、北京市民は、共産党の原理原則に背反しなければ、基本的に何をやっても自由です。
社会的なルールというのはまだまだ定着していません。

僕が日本人として幸せだと思うのは、人口、面積、自然、経済規模、文化基盤、教育環境などなど、
適度な具合で大きくなく、小さすぎない。中国は大きすぎて、韓国は小さすぎる。
前者はマネージメントが極端に難しく、後者は規模が少ないゆえにせっかちにならざるを得ない。
我国の巷では、GDPで中国に抜かれたとか、英語レベルはインド人の10分の一以下とか、
製造業でサムスンに抜かれたとか、アメリカへの留学整数で中国・韓国に完全に取り残されているとか、
日本人としてがっかりするようなニュースが後を絶たない。
一貫して主張しているように、僕は祖国に対して断じて「こもるな!」と言いたい。
中国や韓国とも切磋琢磨して戦っていくべきだ。
競争の中でしか成長は生まれないという信念は、一生変わらないと思う。
世界の中の日本は日本では見えない。
この問題は、今後継続的に皆さんと考えていきたいと思います。

ただ、ここで逆説的に言いたいことは、「大きすぎず、小さすぎない」という一国家が
健全な発展を遂げる上で恵まれた条件を備えていることを、私たち日本人は明確に認識し、
感謝の気持ちを持って日々充実させていこう、ということです。

21世紀前半期のキーワードは「ミドル」だと思ってます。
背丈にあった国家建設をしていきましょう、ということです。
軍事力を充実させるとか、政治大国になるとか、憲法9条を改正して、集団的自衛権の行使を
可能にしようとか、色んな議論があるし、それらは必要なものだと思います。
ひとついえることは、「日本人として豊かな生活って何なんだろう」、と
国民自身が立ち止まってみることでしか、政治は変わらない。
そのための問題提起と議論のフレームワークを提供し、リーダーシップを発揮するのが政治家の仕事。
民主主義、人権、言論の自由、法治主義、どれも素晴らしいコンセプトだけれど、
「存在のための存在」であってはならない、これらはあくまでも手段でしかありません。
国民が豊かになるための民主主義、国民が安らかに生活できるための人権、
国民が意見を述べられるための自由、国民が規律的に生活できるための法治主義です。
本末転倒に陥ってはいけない、というのはプリンシプルの問題です。

すいません。
書き始めるととまらなくなる性格です。
ソウルに来た感想を書こうと思っていたのに、話がどんどん膨らんでしまいました。
今日はこのくらいにします。数日後北京に戻ります。

2010年1月18日 ソウルのホテルにて
加藤嘉一