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20130516

皆さんこんにちは。加藤嘉一です。

僕が日本を離れて10年になります。

この間北京を中心に、自分なりに「現場」を探しながら日中関係を見てきました。

反日デモを初めて現場で目撃した2005年4月、小泉政権時代、漁船衝突事件が起きた2010年、
尖閣諸島をめぐる情勢で荒れた2012年。
日中関係、日中交流という大きな歴史的流れ・枠組みの中で言論を発信してきた人間として、
苦しく、厳しい時期もたくさんありました。
というか、ほとんどでした。

ただ、アメリカに渡って、視点を変えて太平洋の向こう側を眺めるようになった今ほど
日中関係の行方を危惧することはありませんでした。
尖閣情勢を巡って、昨今の危機的状況を打破する政治的戦略、外交的落としどころ、
民間の知恵はいまだ探し出せていません。
企業、文化、青少年交流はそれでも続いていますが、殺気立つ政治的関係を前に、
民間人の努力や文化交流のチカラがどれだけはかなく、切ないものであるかを、
これまで僕なりに経験してきました。

長いトンネルを抜けるには、官民双方の戦略と努力が必要なのは言うまでもありません。

僕が近年見て、考えて、国交正常化40周年の年に谷底に落っこちたかに見える
日中関係の現状と展望を分析すべく、米ニューヨークタイムズ中文版に寄稿しました。
タイトルは「2005~2012:日中関係は何故ここまで和解できないのか?

昨今の尖閣情勢を含め、日中がなかなか和解できない戦略的理由と時代的背景を5つ挙げました。

あえて、原文にある文言を日本語+英語で紹介します。

1.情報の非対称性ー事実を巡る共有が出来ていないこと
    (Information asymmetry: Lack of mutually agreed facts)
2.外交的なミスコミュニケーション及びミスパーセプション
    (Miscommunications and misperceptions in diplomacy)
3.日中両国における政府の統治能力低下とナショナリズムの台頭
    (Rise of nationalism and decline of political governance in both countries)
4.東アジアにおけるパワーバランスの歴史的変化
    (Permanently shifted balance of power in East Asia)
5.政府外交と市民社会の乖離
    (Disengagement of civil societies in political dialogue)

1972年~2012年の40年間は「国民国家」(Nation State)における
後ろの部分ー「国家間関係」を正常化し促進するプロセスでした。
節目の年を迎えたこれから、2012~2052年の40年間は、
前の部分ー「国民間関係」を正常化し、促進していくプロセスだと思います。
これまで民間交流が疎かにされていたというわけではありません。
我々の先人が血のにじむような努力をされてきたからこそいまがあります。
しかし、これまでの40年間、日本人と中国人が本当に互いを平等に尊重し、
同じ目線で交流をし、相互理解と相互信任に務めてきたかというと、疑問符が付くでしょう。
日中の国力が歴史的に類を見ないほど均衡する今こそ、両国民が対等な立場で交流し、
等身大の相手、そして本当の自分を理解する時代です。
遠慮と忌憚のない率直なコミュニケーションが真の相互理解を創出すると僕は考えています。

これから40年かけて、日中間で心の正常化を図るのです。

これからが本当の勝負です。

2013年5月14日 ケンブリッジの自宅にて